2010年10月1日金曜日

第7回 特別版 ワシントン・コンセンサスの終幕

 昨日(9月30日)の朝日新聞(朝刊15面)において、ワシントン・コンセンサス(ワシントンの合意)が事実上終幕する記事が載った。世界銀行のゼーリック総裁が、9月29日の講演で、「世界経済に地殻変動が起きているなかで、思考の枠組みも変わらなければならない」、「新たな多極的な世界経済には、多極的な知識が必要である」と表明したとのことである。
 私が本ブログで批判する最大の標的の一つは、新自由主義的な経済政策を掲げるワシントン・コンセンサス<注1>であった。今回はテーマの予定を変更して、特別号としてこの問題を取り上げたい。

<注1> ワシントン・コンセンサスとは、「ワシントンの合意」の意であり、米国政府(ワシントン)、IMF、世界銀行が、世界の全ての国がとるべき経済政策についてConsensus“合意”した政策で、下記の10項目を指す。
ワシントン・コンセンサスは、1989年11月のベルリン壁崩壊から、さらにソ連の崩壊(1991年12月)を見越して、発展途上国のあるべき経済政策について、80年代に起きた金融危機の経験も踏まえて、1989年に、ワシントンの米国のシンクタンク、国際経済研究所のジョン・ウイリアムソンが発表した経済政策であり、規制撤廃、自由化推進で米国流の政策であった。
  1. 財政赤字の是正
  2. 補助金カットなど財政支出の変更
  3. 税制改革(高額所得者、企業の減税、消費税増強)
  4. 金利の自由化(規制の撤廃)
  5. 競争力ある為替レート (為替の売買自由化)
  6. 貿易の自由化
  7. 直接投資の受け入れ促進 (産業投資、M&A投資 ⇒ファンド投機へ)
  8. 国営企業の民営化
  9. 規制緩和(労働法制の緩和、郵便・運輸・通信業界など業界規制緩和)
 10. 所有権法の確立

 米国は、1990年代以降、国際機関を督励して、また、国際機関も米国の言いなりになって、各国に押 し付けてきた。さらに米国では、シカゴ大学を震源地として、全米の大学に流布し、米国に留学した MBA (経営学修士)など学生や研究者を通して、世界に伝播してきた。流行性疫病が全世界に急速に 感染したかのようであった。流行を誰も止めることが出来なかった。
 
 日本でも、渡米した留学生や客員研究員が感化されて帰国して、あたかも米国の伝道師の如く自由主 義的な改革を主導してきたのである。ハーバード大学の客員准教授やコロンビア大学ビジネススクー ルの客員研究員などの輝かしい経歴を持つ竹中平蔵氏や、一昨年12月、新自由主義から決別し転向し て世間を驚かせた中谷巌氏もこれらの研究者である。(参考:中谷巌氏は、自著「資本主義はなぜ自 壊したのか」2008年)


 ワシントン・コンセンサスは、何故かマスコミ報道も少なく、日本ではあまり知られていないが、1990年以降、日本において、米国が要求する経済政策は、この内容がベースとなっている。

 まず、対日貿易赤字と財政赤字の双子の赤字に悩む米国は、1989年~90年にかけて、日本に、構造改革を迫り、日米で構造協議を5回行い、その最終報告書<注2>が海部内閣により1990年6月28日に、父ブッシュ大統領宛に提出された。

 <注2>日米構造問題協議最終報告は、次のような宛先と書き出しで始まっている。
 日米構造問題協議最終報告
 平成2年6月28日
 アメリカ合衆国大統領        日本国総理大臣
   ジョージ・ブッシュ閣下       海部俊樹閣下
 1989年7月の経済サミットでの日米両政府首脳による決定を受け,日米の構造問題協議作業グル ープは,別添の構造問題協議共同報告書を提出致します.(以下略)


 米国は、「大店法の撤廃」、「政府・自治体による米国製スパコンの入札参加の自由化」「通信衛星の購入の自由化」、「米など農産物の自由化」等の市場開放を迫ってきた。
 海部内閣は、内需拡大政策として、コンクリート中心の公共事業430億円の支出を約束した。このころ田舎に帰省したときに、農家の先輩から、430兆円の公共事業が決まったので、我々田舎も潤うと思うよ、とう趣旨の話しを聞いたことを覚えている。

 その後、村山内閣時代、1994年に、米国のさらなる要求に迫られ、社会資本整備200兆円を上積みし、630兆円に膨らんだのである。これが、現今の財政赤字の元凶になっていることを認識しておかなければならない。

 その後、1996年1月の橋本内閣が、日米構造協議をさらに進める、「6大改革構造改革」を打ち出した。バブル崩壊後の不況対応により財政改革は積極的には手が打てなかったが、1999年には労働者派遣法の緩和が、2000年6月には大店法の廃止が施行されるなどがあり。規制緩和の方向が進められた。
 1.行財政改革    2、財政構造改革    3.社会保障構造改革
 4.経済構造改革   5.金融構造改革    6.教育改革

 次いで、2001年に、小泉・自公政権は、米国の要請により、(年次改革要望書)を交換し、「改革」の旗を掲げ、われわれは、「改革に聖域なし」、「改革に痛みが伴う」、郵政改革が改革の本丸」などの叫びを聞いたのである。

 こうして、約6年間の小泉・自公政権の治世を終えてみると、非正規労働者の激増、年収200万円程度のワーキングプアーの激増、若者の雇用不安、医療の崩壊、学級崩壊、介護・高齢者の生活不安、農業の崩壊、保育園・幼稚園の不足、所得格差の拡大などなど、社会の不安と混迷が増加した現実に直面したのであった。

 こうした事態は日本だけでなく、新自由主義を導入した国々は、本拠地のアメリカもヨーロッパも、つまり全世界的に同様の問題を抱えることになったのである。ワシントン・コンセンサスは、その最大の元凶の一つであった。これが世界銀行において見直されることになったことは、リーマンショックによる金融危機が契機となったとはいえ、彼らの自律的で、真摯な現実認識は十分に評価される。

 ワシントン・コンセンサスを支持し、規制緩和・自由化推進してきた日本の経済学者や世論を煽った(今でも煽っている)マスコミも反省し、何が起きているか、もっと経済の現実を直視すべきであろう。現実に起きていることを直視すれば、新自由主義/市場原理主義の経済理論と政策がとっくに破綻していることが分かるであろう。

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